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蝮(マムシ)のロングヘアー

にゃしち
写真は、今月始めに亡くなった 可愛い可愛い「にゃしち」です。彼も蛇が大好きでした。

「蛇なんか、へっちゃらだ」とOさんは言っていた。
「子供のごろは、体あづいどき、なづなんか、シャツん中さ入れで歩ぐんだ、あれ気持ちいいど。
ある程度、時間たづどグニャグニャになっちまうがら、おもしろぐで、よぐ、やったんだ」

カウンターの隅のT女史が怪訝そうな顔でこちらを見つめている。
「コーヒーは、たばご吸いながら飲むど、うめえんだよなあ〜」
毎回言うことにしているようだ。
「すみません。ウチは禁煙なんで オモテでどうぞ」
これも決まり文句だ。
T女史は満足気に続ける。
「Oさん、知ってっが。蛇はゴム長、嫌いなんだど。なんだがわがんねえげど、ゴム長はいでっと大丈夫なんだ。
匂いがな。おどすっからがな」
「だがら俺は、蛇へっちゃらなんだよ」とOさん
「つ たって蝮だって、いっぺよ」とT女史。
「これがら子供もづど、飛びづいでくっがん、腹 あがぐなっかんわがんだ」
「俺、蝮だってへっちゃらだあ。飛んできたら鎌でかっ切ってやっがん」
「田んぼのへりや薮んながも気付けろ。ゴソゴソやってど ガブ だがんな」
「だがら俺、へっちゃらだって言ってぺよ」
T女史はお構いなしに続ける。
「何年が前だけんちょも、がさっぱさ入っでシノかっ切ってどぎ咬みづかれそうになったんだ。
草くっつげで、ピューり飛び出してきて、おっかながったど〜」

「え、枯れ草くっつけて飛んでくるんですか?」と私。
「あっ、そだ そだ」
「髪の毛みたいにい」
「んだ」
「だったら、蝮の ロングヘアーですね」
「んだ、んだ」
Oさんは、意味が分からず、ポカンとしていた。

これからの時期、蛇は産卵期に入ります。7、8、9月頃まで
蛇は気がたっているようなので、気を付けてくださいね。
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ラピスラズリの空の色

ラピスラズリの空の色


この緑は何色って言うんだろう。土手に落ちていたクルミの実を拾ってきて、色の名前を色見本で探してみた。
玉子鼠(タマゴネズミ)藍玉子(アイタマゴ)柳葉色(ヤナギバイロ)女郎花(オミナエシ)なんとも、穏やかで風流な名前が続々と出てくる。昔の人は、よく付けたものだなぁ、と思っていたら
「もしかしたら、最初に言った人が、ただそう思って付けただけじゃないですかあ」とTさんが言った。
「あれ、この色、何かに似てるね、玉子の色でも、鼠の色でもない中間の色だから、タマゴネズミだよ」ってね。
「でも、玉子色にも鼠色にも見えないから、絵具で混ぜてみたんですかね〜」と私。
「でも最初、名前を付けたとき、絵具ってあったのかなぁ」とTさん。
「どちらにしても、自分で付けて構わないとしたら、このクルミの色は「夏胡桃色」ってことになりますね」
どうでもいい話が終わってTさんが帰った。
六月特有の湿った風が網戸越しに流れている。カウンターの中のパイプ椅子に浅く座り直し、銀泥のカサカサ鳴る青い空を眺めていた。
「この青も空色だけじゃないんだな」
辺見庸の「たんば色の覚え書」を思い出した。
「青は冷静や理性の象徴の色と思われているが、実際には狂気や幻想、恐怖を意味する色ではないか」と彼は言う。
ピカソの青時代の背景や宮沢賢治の「怒りの苦さ、また青さ」の言葉からも、青は憂鬱なブルーだけではない、もっと深い意味がありそうだ。

アフガニスタンの商人はベネチアまで五千キロの旅をした。不思議な荷物を運ぶためだ。
ラピスラズリ lapis(石) lazuri(群青の空)空の破片のような青。画材として使われた。
高価なラピスラズリは、砕いて宗教画に多く使われた。
その青は、金の値段より高くなった。神聖な青と呼ばれ、しかし狂気を孕んだ。
アフガニスタンの空はラピスラズリの青なのだ。
資源が少ないこの地方では、空を切り売りして生活しているのだ。

コーヒー液を落とすと、琥珀色の玉が液面を滑る。コーヒーオイルによるものだ。
琥珀玉と言われ、あまり綺麗なので、これを美味しさの指針としている店も多い。

美しいものには、危険を感じる。見凝めすぎると心を奪われる。

何か悲しいことがあるのか。悲しい時にはあんまり、小さな動物などを眺めると心の毒になるからおよし。
悲しい時に蟻やおたまじゃくしを見ていると、人間の心が蟻の心になったり、おたまじゃくしの心境になったりして、
ちっとも区別が判らなくなるからね。

尾崎 翠 アップルパイの午後「歩行」より

この空もアフガニスタンの空に繋がっている。
綺麗だからってあまり見凝めすぎないように。